就労移行支援事業所 リスタート では、毎週金曜日に自己分析講座をやっています。
自己分析講座では、「自分を知り、人に説明できるようになること」と、「自分で自分にかけてしまっている『制限』に気づき、苦手を克服すること」の2点を軸に分析を進めています。
ここでは、自分について知り、『制限』から抜け出すために、「思い込み」というものについて考えていきたいと思います。
4つのイドラ
今回は、16世紀に活躍したイギリスの哲学者、フランシス・ベーコンが掲げた、「イドラ論」というものを紹介したいと思います。
哲学者であったベーコンは、それまでの哲学に疑問を持ち、思い込みから抜け出さなければ本当の「知」に辿り着くことはできないと考え、人間が知らず知らずのうちに陥っている思い込みを4つに分類しました。
我々は哲学者ではないので、心理の探求を目指すわけではありませんが、思い込みを学ぶことは、前回までの記事でも書いたように、自分を苦しめている考え方に気づくことに繋がります。
ベーコンによる、4つのイデラを見ていきましょう。
種族のイドラ
この種族というのは、我々、すなわち「人間」のことを差します。
人間であることに基づく思い込みが、「種族のイドラ」です。
例えば、朝日は昼の太陽より大きく見えますが実際に太陽の大きさが変わっているわけではありませんし、暗い部屋では置いてある物が別の物に見えてしまうことがあります。
このような、人間としての感覚による錯覚なども思い込みであると言えます。
洞窟のイドラ
個人個人の経験や習慣から作られるのが「洞窟のイドラ」です。
例えば、好きなテレビ番組は人によって違いますよね。
個人が何が好きなのかはもちろんその人の自由なのですが、「きっとみんなも、このテレビ番組が好きなはずだ」と思ってしまうことがあります。
もしかしたら、「これは良いものだから好きになってくれるだろう」と考えていたものが他者の好みと異なり、トラブルになったことがある人もいるかもしれません。
また、「子供はゲームをするな」という親についても同じことが言えます。
この考え自体の是非はともかく、このように考える理由は「自身もそうやって育てられてきたのだから、子供もそうなるべきだ」という思い込みであることがあります。
このような、「自分もこうなのだから人もこうだろう」という考えを、「狭い洞窟の中から世界を見ているかのよう」であるとして洞窟のイドラと呼びます。
日本語であれば、「井の中の蛙大海を知らず」という言葉がわかりやすい例ですね。
市場のイドラ
社会生活を送る中で、他の人と話をしたり、テレビやネットで色々な人の考えを見聞きする中で作られるのが「市場のイドラ」です。
市場で聞いた話で作られるイドラ、ということですね。
現代であれば、インターネットから広がるデマ情報などが該当するでしょうか。
不正確な情報であっても、多くの人が口にしていれば真実のように思えてしまい、時には事実とまったく異なることを信じ込んでしまうこともあります。
また、時には意識してこの市場のイドラを起こそうとする人もいます。
例えば、アンケート結果などの数字のデータを出されたら、それはそのまま真実であると思い込む人も多いでしょう。
しかし、数字そのものは嘘をつかずとも、アンケートを取る対象を選んだり、「どちらともいえない」という回答をわざと計算に入れなかったり、といった方法で、思い込みをコントロールすることができてしまいます。
劇場のイドラ
あなたは、「先生」に言われた言葉をどれくらい信じていますか?
「テレビに出てきた専門家」の言葉はどうでしょうか?
「劇場のイドラ」は、権威のある人の言葉を信じてしまうイドラです。
舞台の上で行われた見事な演技を真実であるかのように思ってしまうように、「偉い人」や「信用を得ている人」の言葉を信じてしまうのです。
もちろん、それらの人が話すことは嘘っぱちだ、などと言いたいわけではありません。
重要なのは、「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」で判断するということです。
かつてカトリック教会が唱えていた天動説は、誰もが信じていたにも関わらず覆されました。
今現在権威のある人が話している内容がすべて真実であるという証拠など、どこにもないのです。
イドラから抜け出すには
前回の記事でも述べましたが、思い込みは必ずしも悪いものというわけではありません。
思い込みがあるからこそ、日々の様々な選択に対応できるわけですし、共通の思い込みがなければ社会は成り立ちません。
しかし、すべての思い込みをそのまま信じることは、自分を制限し、苦しめる考えもすべて受け入れることにほかなりません。
イドラから抜け出すために必要なのは、自分の考えを客観視して、観察と実験により物事を判断することです。
自分を苦しめる考えは、それが思い込みであることを明らかにして、より現実的な考え方を探っていきましょう。