双極性障害(躁うつ病)ってどんな病気?-③

「双極性障害」は、統合失調症や境界線パーソナリティ障害など、ほかの病気と間違われることがあります。
「躁」と「うつ」という二面性から生ずる分かりづらさがあるためです。

「双極性障害」と間違われやすい病気

■統合失調症
統合失調症には「陽性症状」と「陰性症状」の2つの型があり、病気の初期には陽性症状があらわれ、長期化するにつれ、徐々に陰性症状が出現する傾向があります。
この二面性が、「双極性障害」と似ています。
陽性症状は、幻覚、妄想、興奮状態がおきて、周囲から見ても心の病気にかかっているのだと分かります。
陰性症状は、自発性がとぼしくなり、感情表現がにぶく、人付き合いが苦手になるという状態が、うつ症状にも見えます。
■自己愛性パーソナリティ障害
自己愛が強い人の行動は、躁状態に見えることがあります。
自分の業績や才能を誇張し、過剰な賞賛を求めたり、自分が特別な存在で、地位の高い人たちにしか理解されないと信じます。
対人関係で不当に相手を利用し、他人の気持ちを理解しようとはしません。
芝居がかった言動で、周囲に迷惑を及ぼす点は、躁状態の人と似ています。
■境界性パーソナリティ障害
「境界性」は、「神経症」と「統合失調症」、2つの心の病気の境界にある症状を示していて、特徴としては、不安定な対人関係が「双極性障害」と似ています。
はしゃいでいたと思えば、急に落ち込む。ほめちぎっていた相手を急にこきおろす。過食やリストカット、大量服薬を繰り返すなど、極端な感情のゆれが大きな特徴です。

「双極性障害」の治療方法

「双極性障害」の治療は、単極性の「うつ病」より治療が困難で長期化する傾向にあります。
治療を続けられるかどうかは、周囲の協力も関わってきます。

「双極性障害」の治療が難しい2つの理由

■薬を飲み続けられない
薬の効果が出るまで2週間以上かかることや、副作用が出やすいため、薬の服用を自己判断でやめてしまう人がいます。
■診断がつきにくい
多くの人は、躁状態を経験しても病気の自覚がないため医師に伝えず、双極性障害が見過ごされることがあります。

治療の柱は「薬物療法」と「精神療法」

■薬物療法

気分が大きく上下に乱れた状態を安定させる「リチウム」などの気分安定剤が使われます。
気分安定剤は、特効薬というほどではありませんが、現在「双極性障害」の治療と再発予防で効果が認められた第一選択の一つです。
単極性うつで使用される抗うつ剤は基本的に使いません。
「リチウム」で効果が見られない場合、慎重に量を増やすか、別の気分安定剤に変更する、もしくは通電療法(ECT)を検討します。
また、「双極性障害」は再発率が高いため、効果のあった気分安定剤はそのまま継続することが再発防止につながります。
一般的に症状が落ち着いてから1年くらいは薬を飲み続けることが多いようです。
薬をやめるときも、血中濃度を確認しながら、徐々に減らします。
急激にやめると再発のおそれがあります。

■精神療法

精神療法とは、「治療者と患者とのやりとりの中で病状を改善する方法」と定義されています。
フロイトの精神分析理論を軸に、さまざまな方法が開発されています。
〇認知療法
認知の仕方を見直し、情緒の問題を解決しようとする方法。
うつ病では、「自己、世界、将来」の三領域で悲観的に考える特徴があるとされるため、これに患者さん自身が気づき、適応的な認知反応を身につけます。
思考の誤りや偏りに気づくことで再発の防止にもつながります。

【陥りがちな思考パターン】
・絶対思考……自分や他人に対して厳しく、融通のきかない考え方。
よいか悪いか、成功か失敗か、と白黒つけたがる。
【こんなふうに考えよう】「~~するべき」から「~~したい」という願望の表現に変えてみる。
・視野狭窄……自分の考えを確かなものにするために、自分でも気づかないうちに心にフィルターをかける。自分の考えと相反することを無視、排除している。
【こんなふうに考えよう】できるだけ広い視野をもつように自分で心がけるようにする。
・結論への飛躍……事実をきちんと理解せず、自分の推測や仮定の段階でいきなり結論を出し、それを一般化してしまう考え方。
【こんなふうに考えよう】結論を出す前に、さまざまな可能性を考え、情報を追加していく。
・誤認……うつではマイナス面ばかり、躁ではプラス面ばかりみて物事を判断するため問題が起きる。
【こんなふうに考えよう】ポジティブな情報もネガティブな情報も重要なことを見逃していないか考える。他人から賞賛や忠告をされたら、その言葉をすぐ否定せず、感情的に考えるのをやめる。

精神療法の中でも「認知療法」は「双極性障害」にもっとも効果があると言われています。
うつや躁に陥ってしまう思考の偏りは、「心のクセ」のようなもの。
できるだけ客観的に冷静に自分を見つめなおしましょう。

〇行動療法
不安や恐怖、強迫症状など問題となっている行動を分析し、行動のきっかけとなっている条件付けを強化、または消去し。患者さんの行動の適正化をはかっていく方法。

〇対人関係療法
患者さんと「重要な他者」との人間関係に注目し、その人間関係で直面している問題に焦点をあてて問題解決をはかる方法。

〇精神力動的精神療法
無意識の中に抑え込まれた欲動を自由連想方によって明らかにする方法。

日常の中で本人や周囲ができること

治療は専門医から受けますが、心の病気は医師まかせではなかなか改善しません。
生活リズムやもののとらえ方など、日常でもできることはたくさんあります。
周囲の人の対応も重要になります。

〇患者本人ができること

・生活リズムを整える……「双極性障害」の人にとって、徹夜は大敵。発症の引き金になったり、悪化の原因にもなります。床につく時間を決めておく、寝るまでに心身を落ち着かせる、入浴などで疲れをとってから寝るなどで対策します。また、一日3食規則正しい食生活を心がけ、適度な運動を取り入れましょう。
・ストレスに振り回されない……うつの時は変化や新しいことに弱くなり、躁のときは興奮しやすく、イライラしがちです。これらの感じ方の違いを自分で理解しておけば、気分に振り回されないようになります。無用なストレスはできるだけ回避し、できるだけ楽しいことを組み込むようにすると、毎日が心穏やかに過ごせるようになります。

〇本人・周囲ができること

・「してほしいこと」「してほしくないこと」を理解する……「双極性障害」の人は身近な人との関係がギクシャクしがちです。病気についての不理解から双方の関係を崩さないよう、「してほしいこと」「してほしくないこと」「言ってほしいこと」「言ってほしくないこと」を知っておきましょう。
・再発、予兆を見逃さない……「双極性障害」はとても再発率が高い病気です。うつ状態や躁状態になる前は、いつもよりイライラや緊張感を感じる場合があります。予兆を感じたら、周囲に助けを求め、受診や服薬などの適切な対応をすることが大切です。
患者本人も、あらかじめ病気の予兆を知っておき、症状があらわれたら受診を促します、特に躁状態は、放っておくと症状が激しくなり、周囲の説得に耳を貸さなくなることがあります。さらに症状を悪化させてしまう人もいるため、こんな症状が出たら受診する、と医師と約束しておくのも一つの方法です。

〇周囲の人ができること

・孤立させない……「双極性障害」にとってもっとも危険なのが自殺です。自殺を思いとどまる理由の多くは、やはり家族など人との絆です。「死ぬのはよくない」などのお説教ではなく、普段通りの会話をするなど、近くにいて、常に気をかけているというメッセージを伝えることが大切です。本人から「死にたい」などの言葉が出てきても、うろたえずに、その気持ちをよく聞いてあげるだけで本人の気持ちが楽になることもあります。そして、できるだけ早く医療機関へ受診を促します。

 

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