統合失調症ってどんな病気?-⑤
「統合失調症」の治療は、「薬物療法」、「精神療法」、「精神科リハビリテーション」の3つが柱となりますが、気持ちを支え、社会へ一歩踏み出せるように、さまざまな心のリハビリを行っていきます。
認知行動療法
「認知行動療法」は、もともとは不安症やうつ病の治療として行われていましたが、最近では、「統合失調症」などでも、激しい症状を緩和させ、再発を防止する効果が分かってきました。
認知とは、ものごとのとらえ方や受け取り方のこと。
人は誰でも今までの経験や知識をもとに無意識のうちに状況を認識し、判断し、行動を決めています。
このとらえ方には、人によって偏りがあります。
この偏りのために、望ましくない行動パターンに陥っていることがしばしばあります。
認知行動療法では、この考え方の偏りに気づかせ、ほかの可能性や考え方に目を向ける練習をします。
考え方を変えると、ものごとの見え方や行動パターンが変わり、その後に生じる感情にも変化が出てきます。
認知行動療法の進め方
治療はまず、とっさに自分の中に浮かぶ考えやイメージを言葉にすることから始めます。
無意識に判断していた状況を、意識的に見直していくうちに、「考え方に偏りがある」ことや、「ほかの考え方もできる」ことが見えてきます。
できごと |
建物の外に女性がかれこれ10分ほど窓の前に立って道行く人を眺めている |
考え |
・顔がよく見えない → 私に顔を見られたくないんだ |
・ずっと窓のところに立っている → 私を待ち伏せしているんだ |
↓↓↓ もしかしたら別の見方ができるかもしれない ↓↓↓ |
考え |
誰かと待ち合わせしているだけかもしれない |
行動・感情 |
→ 気にしない。こわくない |
作業療法
「作業療法」は、体を動かしながら、集中する感覚、作業を楽しむ気持ちを徐々に取り戻すリハビリテーションです。
精神科で行われる作業療法の内容は、レクリエーションから屋外作業までさまざまですが、一番大切なのは、充実感や達成感を味わい、自分からすすんで「やりたい」と感じられること。
治療とはいえ、「やらなければならない」「就労につながる技能を身につけたい」と無理に取り組むのは逆効果になりかねません。
また、作業療法は、仕事の技能を身につけるためだけに行うわけではありません。
作業を通じて、気持ちを安定させるなど心を元気にするのが目的です。
効果1 | 生活リズムが整う | 自宅療養では生活が不規則になりがち。時間を決めて作業に参加することで、生活リズムを改善できます |
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効果2 | 集中力を高める | 根気よく作業を続けることは、集中力や持久力を高めます。集中力が高まると、考えもまとまりやすくなります |
効果3 | 対人関係を学べる | ほかの人と一緒に作業する中で、人と会話したり、協力したりする経験を積みます |
効果4 | 幻聴や妄想から離れられる | 作業に熱中している間は幻聴や妄想に気を取られにくく、症状に悩まされる時間が短くなります |
社会生活技能訓練(SST)
「社会生活技能訓練」(SST)とは、日常生活を営み、社会で生活するために必要な技能を身につける訓練のこと。
統合失調症スペクトラムでは、陰性症状や認知機能障害のために、日常生活に支障が出たり、対人関係が難しくなります。
SSTでは、人とのコミュニケーションをスムーズにする「技術」を身につけ、本人が社会生活で感じる難しさを解消していきます。
SSTは、数人のグループのロールプレイでおこなうのが一般的です。
ロールプレイとは、ある場面を決めてそれぞれに役を割り振り、その人物になったつもりで演じること。
いろいろな立場を演じることで、場面場面での適切な行動が分かるようになります。
① 割り振られた役割になりきって考える |
「このようなとき、この立場の人はどのようにすればよいのか」を考えるのは、相手の考えや感情を理解するヒントになります |
② よかったところを伝え合う |
気づいたことをお互いに伝え合います。批判やダメ出しではなく、よかった点を伝えます。ちょっとしたポイントでも、本人には励みになります |
③ 改善点をふまえてもう一度ロールプレイをする |
言われたことや、自分で感じたことをふまえて、もう一度練習します。いろんな場面を繰り返し練習すると、状況の変化に対応できるようになります |
家族の心がまえ
家族はつい、「ぼんやりしていて、ふがいない」と感じて本人にあれこれ指示したり、「なんとかしてあげたい」と、世話を焼いたりしがちです。
しかし、いずれも本人を追い詰め、自立を奪うことになりかねません。
自分のことは自分でしてもらい、無理のない範囲で家事なども分担します。
そして、できることをだんだん増やしていきましょう。
役割を一度決めたら、家族は「口や手を出しすぎない」。
本人が『できた』と感じ、家族から感謝される。
それが心のエネルギーになります。
① 役割を分担する |
簡単で負担の少ない家事から手伝ってもらいましょう。決めるときは、本人と話し合い、「家族がしてほしいこと」ではなく「本人がしたいこと」を優先してください |
② 本人のペースで取り組んでもらう |
家族にとっては簡単なことでも、最初は時間がかかることもあります。歯がゆく思っても、まずは本人の頑張りを見守りましょう |
③ 感謝の気持ちをきちんと伝える |
頼んだことが終わったら必ず「ありがとう、助かったよ」「がんばったね」など、感謝を伝え、努力を労いましょう。頑張りが認められ、役に立ったと感じられると、本人の気持ちが和らぎます |
④ できることを少しずつ増やす |
回復のペースを見ながら、少しずつ役割を増やします。周囲が「次はこれ」と先走りすぎると、本人にはプレッシャーになるので注意が必要です |
自立を目指して
社会復帰までの道のりや時間、その内容は、患者さん一人ひとりで違います。
回復の経過は年単位で進むことがめずらしくないので、急がないことが大切です。
回復してくると、社会復帰を焦りやすくなりますが、再発・再燃のリスクが高まるため、焦る気持ちをぐっとこらえ、自分のペースを大切にしましょう。