利用者さんの卒業論文

リスタートを1月末に卒業された利用者さんが、就職までの道のりを振り返り、文章にまとめていただけました!

リスタートへの通所を始めるより以前の困りごとから、リスタートでの活動内容、どのように就職したのかなどまで細かく書いていただけています。

ご本人様よりブログへの掲載許可をいただけましたので、こちらに掲載します。

就労移行支援事業所に通うことで何が変わるのか、困っていることに対してどのように対処していけばよいのかなど、非常に参考になるかと思います。

0.はじめに

これを書くにあたり、リスタートに2年間通っていた時に“感情メモ”と名付けて書き留めていたノートを引っぱり出して書いています。
同じ共通点のある方や、就労移行について知りたい方や、検討している方に届けば嬉しいです。

1.私ってどんな人?

①こども~大学生

私は30代女性です。
公立小中高、私大4年生大卒といった一般的な進路でした。
目立つほどの問題行動はなかったのですが、小学校は嫌いでした。
嫌な言葉を時々言われても言い返せないし、いじめられても「学校には行かねばならない」と思い込んでいたので、我慢して行っていました。
文化祭など単発行事は好きでも修学旅行は嫌いで、1日中集団行動をする良さ(意味)はわかりませんでした。
得意な教科があるわけでなく、運動はかなり苦手。
また、みんなと違って現代文の成績がとても悪かったです。
周りからは個性的でちょっと変わった子だったと思います。

②就労~リスタート通所前 ~障害名診断~

学校以外の居場所を求めて高校まで児童館に通っていた私は、卒業して児童館の契約社員になりました。
給与を補うために小売業でのバイトもし、ワーカホリックのような生活でした。
学童部門に配属の時は児童館と違い、こどもの帰宅時間を把握しながらこどもを見守ることにとても脳が疲れていました(後に同時進行が苦手とわかる)。
海外留学を経て帰国、今度はコンビニで勤務。
ところが苦手と得意の差が激しいことがわかり苦労しました。
上司に何度か同じ注意を受け、自分の行動を振り返った時に発達障害を疑い、病院で診断がおりました。
その後転職できるも複雑な業務が難しく3ヵ月で解雇になってしまいました。
死ぬ気はなかったですが、「この電車に当たったら仕事行かなくていいのかな」と考えるくらい気持ちが落ちていたのを覚えています。

2.就労移行の決め方 ~リスタートに決めるまで~

解雇されて「1人での就活は無理だ」と感じ、病院にあった就労移行の案内を見て何件か見学、体験しました。
検討している方は、何カ所かの見学や体験をお勧めします。
事業所によってPCや心理学等、特化している内容が違うからです。
私はPCスキルは大方あったので、他の事業所にない「新聞読解」プログラムでの意見交換が面白かったのと、障害特性を学べること、雰囲気が固すぎず、緊張しすぎずに取り組めそうなことからリスタートに決めました。
この時は3ヵ月くらいで卒業するつもりでいました。
職歴書もできているし、週5フルタイムで働けていたからです。

3.通い始めて

①前職のコンビニより再就職のオファーがくる

解雇のことを知った前職の上司より、もう一度働かないかと声をかけてくださり、接客が好きな私はとても悩みました。
リスタートの所長にも相談し、ここで学ばないで戻ったら以前の自分と同じだと気づかされて断りました。
でも、これをきっかけに親に自分の障害を伝えることができたので、この出来事は必要だったように思えます。 

②まずは慣れることを目標に

まずは障害者手帳を申請しました。
通所に関して、生活リズムは比較的安定していたので、最初は毎日午後、その後毎日10時から15時までの1日通所を始めました。
好奇心旺盛なので色んな講座に参加するのですが、頭とエネルギーをよく使うので、しばらくは夕方は結構疲れていたのを覚えています。
3,4ヵ月すると、徐々に慣れていきました。

③変わっていく

通って少しして所長に、「通う前より表情が良くなった」と言われました。
最初から毎日通い始めていた私は、よくある就労移行の利用者事例の「週1から始めて毎日通えるようになりました」という文を読みながら「私は変えられていくことはあるのだろうか」と思っていました。
私は既に変わっていたのです。

4.私が変えられたこと

(1)講座(プログラム)に参加して

面談をしながら就職するためにリスタートで何をしていくかを決めていきました。
既に働ける体力はありましたが「仕事が辛くても学校や仕事には行けてしまったので、自分が健康なことが残念」という心が病んだマイナス思考をしていたので、以下の講座等に出席して考え方を治したり、障害理解を深めていくことになりました。
以下のリンクをクリックするとその講座のブログページに飛べますので興味のある方はぜひ読んでみてください。
プログラム紹介ページ

①自己分析

「小学生の頃の自分」など人生を何コマかに分けて思い出していき、自分のことを深く知っていきます。
繰り返すと、以前気づかなかった部分も気づくことができ、分析に深みが増しました。
自分のことを知って説明できるようになると、いつのまにか就活の面接で説明できるようになるのです(驚!)。
辛いことを思い出すことはとてもエネルギーを使います。
私もかなりきつかったことがありますが、とても大事と思いました。
自分の短所を長所に言い換えられることも学んで、先に書いた「健康なことが残念」ということも「過去に頑張って通っていたから今リスタートに来られているんだ」という風に見方を変えていくことができるようになったと思います。

②認知行動療法

学んだ1つは『認知のゆがみ』についてです。
人はみんな「思考のクセ」を持っていて、それは『認知のゆがみ』になっていることがあります。
「あの人が返事してくれなかったから私に不満があるかもしれない」と『心の読み過ぎ』をし不安になっていることや、今日以外はできたことがあっても「私はダメだな」と『白黒思考』で悪い方に判断していることにこの講座で幾度となく気づかされました。
自分の認知のゆがみを直すのは時間がかかると思いますが、これを学ぶと通所中でも就労時でも、メンタルが落ちた時にゆがみに気づけることができるので、対処することができます。
過去の自分とは違う自分になれます!

③SST(ソーシャルSocial スキルSkill トレーニングTraining)

「こんな時なんて言う?」「相手は何て思っている?」の事例をいっぱい教えてくれました。
「アサーティブ」という上手な伝え方も学べます。
私は現代文が苦手だったと先に書きましたが、これは相手の気持ちを想像することが苦手なところから問題が解けなかったという障害特性とわかりました。
講座以外でも会話の体験から、相手がどう考えているのか等、職員にたくさん質問し、見方を変えることができました。
この講座にはアイスブレイクゲームがあるのですが、私はそれも大好きでした。 

④ハローワークの職員からの就活対策講座

月に一度、ハローワークの職員が来て下さって面接訓練を行って下さいました。
緊張感を持って面接訓練ができるのと、アドバイスや講義が実戦的で励みになりました。
身だしなみ講座の時は、就活メイクを個々にアドバイスしてくださって、あまり知識のなかった私は、メイクも以前より上手にできるようになりました。

(2)講座以外の視点から

①セルフシート

在籍期間の毎日、「セルフシート」用紙に就寝起床時間、体調、気分等を自分で記入します。
最初は言われるがままに行っていましたが、3ヵ月目あたりから、自分の体調の変化の瞬間に少しずつ気づきました。
普段「よい」と書いた項目が「なんか違うな」と思うことがわかってくるのです。
「気になることや、不安なことがあった日の夜は眠れないことが多い」、や「前日の気持ちが『ハイ』な時は翌日疲労感が残る」などに気づくことができ、そのような時は書き出して気持ちの整理をしたり、帰宅後に家での予定を詰めすぎないよう対処できるようになりました。
PC作業だけでなく、緊張からも肩が凝るなんてこともここで初めて知りました。
働いていた時は、仕事のことはいっぱい考えましたが、毎日自分の体調に向き合うことはなく、夜更かしして零時~2時に寝てばかりいました。
私の場合は8時間くらい睡眠時間があった方がコストパフォーマンスも良いことが通所してわかり、今は23時に寝るように変えられました。

②朝の段取り

通所開始して少ししたある朝、「頭の混乱」を感じながら通所し、講座に集中できませんでした。
自覚したのは生きてて初めてでした。以前もあったかもしれませんが、セルフシートの継続をしていたからこそ気づけたことと思います。
面談の際、混乱故に言葉がまとまらず話せなかったので、紙に書くことを提案して下って書くことができました。
朝、持ち物が見つからなかったことが原因とわかり、やっと頭がすっきりしました。
以前から朝の支度がバタバタしすぎていたので、職員のアドバイスの元、「朝のタイムプラン」を作ることになりました。
朝の行動とかかる時間を書き出し、何時に何をするかをリストにしました。
「手袋などの持ち物は玄関先に小さい物干しを吊して、帰宅時もそこに戻すと朝も探さずに済む」「前日に翌日の服を出しておく」ことも教えて下さって、実践以降現在も、朝の支度がすごくスムーズになりました。
 

③無理しないで休む、断る

私はリスタート以外の時間に予定を入れすぎて、他人から頼まれたことも、わりとすぐに引き受けるクセがありました。
ある時、知人らと企画していた行事の役割分担を引き受けすぎて、優先順位がつけられず、プレッシャーにも不安が出て、人生で始めて不眠症になってしまいました。
寝不足から動悸がありましたが、こんな時でも「行かなければいけない」といつも思っていて何とか通所はしても、活動の半分はリスタート内で横になって休んでいました。
講座は自分で出席か否か(=個別課題の時間にする)を決めることができます。
就学就労で辛くても休んだことない私は、この時初めて「休む」という選択ができました。
「無理しないで休む」ことと共に、少しずつ活動量を元に戻していくことも学びました。
同時に、新たな依頼を「断る」ことや、食べきれない時に「無理して食べない」ことを選ぶこともこの時本格的にできたように思えます。

④障害特性とその対処法

講座の他に「個別課題」の時間で、就職までに自分の必要なことができる自習時間があります。
最初の半年くらいは自分の障害に関する本を読みあさっていました。
毎日の短時間面談、講座での学び、個別課題時間から、障害特性や特性に対する対処法を学ぶことができました。
言葉での説明が得意ではないので、事実から伝えていく「PREP法」も新しく学びました。

5.リスタートで製作したもの

 

①パワーポイントでプレゼンの訓練

リスタートにはプレゼンの練習を兼ねて、発表できる制度があります。
私も先輩利用者の発表を見て立候補しました。
クリスマスをテーマにパワーポイント作成、質疑応答を含め45分に収めるように計画しました。
PCスキル、段取り、打合せ、相手を意識した説明方法など、就労で必要な多くのことを実践できる、とても良い機会でした。
ブログに載せて下さっていますので、良ければご覧下さい。

祝日特別プログラム 「クリスマスって何?」

②自分の取説

講座や今までのリスタート生活でわかった自分の性格を人にわかりやすく説明するために「取扱説明書」を作成しました。
「自分を一言で表すと」や、「こんな時嬉しい」など場面ごとでもまとめました。
「短所も長所になれる」ということも学べました。

6.実習へ行く ~進路変更~

個人のペースに寄りますが、講座に参加しながら企業実習に行くことができます。
面接を経て実習できますが、人気の場合は抽選になるので、可能ならばどんどん応募した方がよいです。私も3ヵ所実習しました。
3ヵ所目は、通所して1年2ヵ月目でした。
初めて「特例子会社」の企業を選びました。
特例子会社とは簡単に言うと、障害者雇用の勤務者の割合が多く構成されている会社です。
私は障害者雇用としての勤務は未経験で、体感で何が違うか知りたかったのと、視野を広げるために事務職を体験する必要があると感じたからです。
事務職は未経験でしたが、私にもできることがあることや、小休憩の融通が効きやすい環境が一般雇用とは違うとわかりました。
障害者雇用では接客業は求人数が少なく、冷房が効きすぎている店舗が多く体調管理が不安だったこと、シフトの増減の可能性もあることもあり、この実習をきっかけに接客から事務職応募に切り替えることにしました。
事務職が初めてのこともあり、実習で安心感があったので、特例子会社に絞って探すことにしました。

7.就活をする ~2020緊急事態宣言、在宅訓練からの~

就職にあたり職場環境を重視していた私は、実習をして自分に合うか確かめたいとずっと思っていました。
しかし、コロナウィルスの感染拡大により、採用面談付き企業実習面談会は軒並み中止、4月には緊急事態宣言が発令され、リスタートも在宅での課題取り組み(在宅訓練)になりました。
在宅訓練では、毎朝体調報告メールをし、課題に取り組み、職員と週に1回電話面談をしたりしました。
外出もできず、活動以外でも「今だからできることをしよう」という世間の流れに「色んなことをしなきゃ」と思って頑張りすぎてしまい、精神的に体調を崩してしまいました。
職員が「今できていることに目を向けよう」と見方を変えるきっかけを教えて下さって、何とか乗り越えることができました。
ただ、在宅勤務は合わなそうだとわかったので、基本的に出勤させてくださる企業に応募することに決めました。

緊急事態宣言が解除されましたが、ずっと外出していなかったので体力が想像以上に落ちており、回復に時間がかかりました。
しかし、コロナ禍で求人数は多いと言えず、企業実習の面談会も再開の見通しが立たない中、就活を進めるか、否かすごく悩みました。
職員と「もうwithコロナだよね」という話になり、私も共感しました。
その日の夜ある書物に「勇気を出しなさい」と書いてあり、ハローワーク求人の場合だと実習がない企業がほとんどなのですが、承知の上で求人応募することに決めました。
職員のアドバイスもあり、体力も戻ったばかりなので、1社ずつ応募することにしました。
求人応募を始めて、2020年8月に受けた事務職の特例子会社の面接で内定を頂くことができました。

8.実習、そして就労へ

就労先で実習が始まりました。
配属先は想像とは違ったPC作業がメインのオフィスでした。
新しい環境で体調が変化しやすいので早速体調を崩してしまい、慣れるのに時間がかかりましたが業務自体は自分にもできることなので、過度なプレッシャーがなく安心ができました。
この間に職員とメールや電話での報告相談、企業の上司とリスタート職員との3者面談を重ね、晴れて就労できることになりました。

9.リスタートの職員や利用者のみなさん

職員はどの方も親切ですが、もちろん厳しいときもあります。
しかしいつも「本音」でアドバイスしてくださっていると感じました。
他人から自分の長所聞く機会は中々ない世の中で「人のせいにしないところは良いところ」など直接長所を伝えて下さいました。
また、実習面談の落選が続いた時は「別の方法で一緒にやろう」、あることに気づいた時は「今気づいたからリスタートできますよ」「これからはもっと生きづらさ減るよ」と励ましてくれました。
就職前で不安な時は「必ず理解してくれる人がいますよ」と力づけてくれました。
また、いつも「どんなことをしたら最善か」を考え、随時プログラムに反映していると思います。
ハローワークの職員の面接訓練もその1つと思いますし、今在籍の利用者の障害特性に合わせた書籍を調べて用意して下さって、嬉しかったです。

利用者の皆さんとは、講座以外でも、昼食や祝日プログラムの卓球等で色々な方と話しました。
皆さん共通する優しさを持っていて、心地よく過ごすことができました。
それぞれ異なった歩みを通って在籍していて、私は新たな世界を知って、より色々な人の立場になって物事を考えるきっかけになったように思います。
私はコミュニケーションが好きなタイプなので、大きなテーブルで昼食を食べたり、有志で昼食の皿洗いとふきん洗いのジャンケンタイムがありましたが、コロナ禍でなくなってしまい、あれは本当に愛おしかった時間でした。

10.最後に

みんな「就職はゴールではなくスタートだ」と言いますが、これは本当だと今実感しています。
私は今度こそ長期就労したいと決めてリスタートに通い始めました。
それを実現するためには、体調メンタル管理、障害特性の対処が必要です。
就労すると、自分のことをゆっくり見つめる時間は本当に減っていくと感じます。
しかし今は以前と違い、睡眠時間や気分の変化等気をつけていることがいくつかあるので、リスタートでの学びが多く活かされていると思っています。
就労移行支援を利用することは私にはとても良い方法でした。
就労したい皆さんが1人でも多く自己理解してから、次のステップに進めますように。
リスタートの職員のみなさん、本当にありがとうございました