自閉症スペクトラム(ASD)ってどんな病気?-②

前回の「自閉症スペクトラム(ASD)」の概要と特徴はこちら

「自閉症スペクトラム(ASD)」の特徴として、

●コミュニケーションが困難
●こだわりが強い

上記の2つが主な特徴ですが、その他にASDの定義として重要、かつ全員ではないが、しばしばみられる特徴があります。

その他の特徴

感覚の異常

視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚などの感覚機能になんらかの異常がみられることがあります。

どの感覚がどれだけ異常なのかは、かなり個人差があり、うるさい音が苦手だったり、特定の匂い、特定の味などを強く嫌うケースがあります。

逆に、特定の感覚刺激を強く好む場合もあります。

もともと、自分の感覚機能を他人と比較することは難しい上に、ASDの人は他者と自分を比較することへの関心が低いため、自分の感覚が異常であると気づきにくいところがあります。

また、周囲の人も「自分が平気な感覚を、とても苦手とする人が存在する」ということに気づきにくいという側面があります。

ASDの人たちの感覚異常は、ASDでない人たちから共感を得にくいのが特徴で、それだけに日常生活の中でこれらの問題を軽視されたり、無視されることが多いのです。

一度覚えたことをなかなか忘れない

ASDの人たちの多くは、特定の領域に関する記憶力に優れています。

自分が体感したエピソードを映画のワンシーンのように記憶する人。

関心のある領域について、機械的記憶に優れ、細部にいたるまで正確に覚えている人もいます。

中には、重度~最重度の知的障害がありながら、数字、写実、音楽などに天才的な記憶力を発揮する人がおり、「サヴァン症候群」と呼ばれています。

このような記憶力の良さは、社会生活上で長所になり得ます。

一方で、忘れたいこともしっかり覚えていて、忘れたくても忘れられない、という一面もあります。

不快な経験や悲しい体験を、いつまでも忘れられず思い出してしまい、そのたびに強い心痛を感じてしまいます。

未来を想像することは苦手
記憶力に優れたASDの人たちは、知識や記憶をたくわえても、それをもとにして予測や予想をするのは苦手です。
将来はなにも決まっておらず、自由に選択できます。
確かな事実を好むASDの人にとって、将来や未来、予想外の出来事は理解しにくいことなのです。
記憶力の特徴と、対になる要素とも言えます。

相対的な関係を理解しづらい

知的障害をともなう自閉症の子どもは、「大小」「長短」などの比較の概念、「前後」「左右」などの関係の概念をなかなか理解できません。

知的障害がない場合、多少ゆっくりではありますが、理解できるようになります。

しかし、難しいのは人と人との関係性です。

例えば、帰宅する場面では、
「帰宅した人」→「ただいま」
逆のベクトルで、
「出迎えた人」→「おかえり」

と、2種類の言葉が発せられますが、ASDで幼少期の人は「帰宅した人」と「出迎えた人」との関係が分からず、「ただいま」と言いながら出迎えたりすることがあります。

成年期では、さすがに「ただいま」「おかえり」程度のあいさつで間違えることはなくなりますが、微妙な関係の理解は難しいようです。

ひとつ例をあげてみます。

Aさんは、上司のBさんに明日の会議のアポイントを取るために電話をしたところ、
「いま手が離せないので、1時間後に電話をかけなおすように」
と、言われました。
Aさんは言われた通り、1時間後に電話をかけ直したところ、上司のBさんが
「先ほどは失礼しましたね」
と言ったので、Aさんは
「大丈夫です。気になさらなくていいですよ」
と答えました。

このやりとりを読んで、Aさんの発言が、部下から上司に対するものとして失礼にあたると気づいていただけでしょうか?

「気になさらなくていいですよ」という言葉は、失礼を気にしている人に対して、相手が述べる言葉ですが、通常は、この言葉を述べる人の方が目上です。

Aさんと上司のBさんの立場は逆です。

上司のBさんから「失礼しました」と言われたAさんは「とんでもありません」という趣旨の返事をするのが普通です。

このように、社会的立場によって、人と人との相対的な関係が発生すると、交わされる言葉の使い方が変わってきます。

これらは暗黙のルールであり、特に習ったりしなくても直感的に身に着けるものです。

この会話のやりとりに違和感を感じなかったら、ASDの特性を持っている可能性があります。

運動が不器用

ASDの人たちの一部には、運動機能の異常がみられます。

歩く、走る、泳ぐ、などの「粗大運動」

字を書く、物をつまむ、箸を使う、などの「微細運動」

これらの運動機能が、とても不器用な人がいます。

逆に、運動や細かい作業がとても得意な人もいるため、運動の不器用さはASDの判断基準にはなりません。


次回は、ASDの原因、ASDの人が併発しやすい精神的、神経的な問題をみていきます。

 

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