自閉症スペクトラム(ASD)ってどんな病気?-④
前回の「自閉症スペクトラム(ASD)」の原因と併存しやすい問題はこちら
「自閉症スペクトラム(ADS)」の人たちは、成長の過程で受ける様々な心理的ストレスに反応しやすいのが特徴です。
そのストレスが蓄積するにつれ、二次的な問題が起きることがあります。
目次
ASDの人に起きる二次的な問題
いじめ被害
対人関係が苦手、自己主張が強いなどの特徴は、思春期前後にいじめを受けるリスクになります。
空気が読めないからいじめられる、と思われがちですが、ASDの特徴が強く、空気を全く読めない人は、いじめられていることにも気づきません。
むしろ、多少空気を読める人の方が、頑張って空気を読もうとするあまり読み間違ってしまい、それをからかわれていることに気づいて「いじめらている」と感じてしまうことが多いのです。
登校しぶり・不登校
ASDの人たちは、些細な事柄が登校意欲の低下に繋がり、登校しぶり、不登校になる場合があります。
自らが学校で失敗して強く叱責されたり、また自分ではない他人が怒らたセリフや様子にショックを受けて、翌日から登校できなくなる人もいます。
ひきこもり
いじめや不登校が適切に対処されないと、ひきこもりになる場合があります。
学校だけではなく、家から一歩も出なくなったり、家族とも最低限のコミュニケーションしか取らなくなる場合もあります。
身体症状
常にストレスにさらされることにより、頭痛、腹痛、吐き気、動悸、円形脱毛などの身体症状が出る場合があります。
いくつかの身体症状が複合して出現するときもあります。
チック
ASDの人たちでは、ストレスが高まったときにチックが出現することがしばしば見られます。
まばたきや手足の動きなど、身体の一部を動かしてしまう「運動チック」、突発的に発声してしまう「音声チック」、運動チックと音声チックが複合して持続する場合を「トゥレット障害」といいます。
トゥレット障害は、自閉症スペクトラム障害の人に見られることがあります。
うつ
意欲、自己評価、集中力の低下、悲観的、疲れやすい、睡眠異常(熟睡できない、昼夜逆転など)が複合した抑うつ状態です。
中には、生きていても仕方がない、死んでしまいたいという「希死念慮」が見られる場合があります。
抑うつ状態になり、意欲が低下するため、ASD特有のこだわりが目立たなくなる場合があります。
適応障害
明らかなストレスの要因があり、それを機に、情緒的に不安定な状態や抑うつ的な状態が続く、適応障害が起こります。
頭痛、吐き気、動悸などの身体症状が見られることもあります。
不安・緊張
失敗を繰り返すことなどから、強い不安、緊張感、イライラ感、恐怖感などが高まることがあります。
また、発汗、動悸、頻脈、胸痛、頭痛、下痢などといった身体症状として現れることもあります。
特に定まらない漠然として不安が続く「全般性不安障害」や、対人場面で著しい不安が出現する「社交不安障害」がASD二次的な問題としてしばしば見られます。
強迫性障害
不快感や不安をともなう特定の考えが頭に浮かんで離れない「強迫観念」や、強迫観念を振り払うために特定の行動を繰り返す「強迫行為」が持続する状態。
不潔なのでは、という考えが頭から離れないため、何度も手洗いを繰り返す行動などが表れます。
ASDのこだわりと似ていますが、強迫性障害の人は、考え方や行動を不合理だと本人が自覚していて、つらさを感じています。
その点が、ASDの人たちのこだわりと区別されます。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
過去のつらく衝撃的な体験によって心に傷を負い、強く記憶してしまったために、その後さまざまな精神的症状が出てしまう状態です。
過去のつらい体験が思い出されるような状況を回避したり、不眠、集中困難など過覚醒状態が見られることもあります。
衝撃的な体験の記憶が突然鮮明に思い出される「フラッシュバック」という現象が見られるのも特徴です。
ASDの人たちは、ほんの些細なことでも、嫌な体験として忘れられない場合があり、何年も経ってから記憶と苦痛を思い出し、強い不安やパニック状態を示すことがあります。
この現象は「タイムスリップ現象」とも呼ばれています。
被害関係念慮
典型的な自閉症では、ほかの人の考えを全く推論しませんが、ASDの特徴が弱い人は、学齢期以降、人の気持ちが少し分かるようになってきます。
しかし、明確に分かるわけではないので、誤解が生まれます。
その誤解の仕方が「自分は人からバカにされている」といった被害関係念慮の形をとることがあります。
過去に嫌な体験をたくさんしてきた人で、この傾向が多いようです。
二次的な問題への対処方法
これらの二次的な問題は、様子を見ていると問題が定着、悪化して対応が難しくなってきます。
問題があることが分かったら、すぐに精神科などの医療機関や相談機関を利用し、適切な対応を始めてください。
特に、幼少期から思春期などの子どもが心身ともに疲れ切っている場合は、保護者の働きかけが欠かせません。
精神科を受診する
抑うつ状態や強迫性障害などの心理的な問題は、治療を必要とする場合が多いものです。
すぐに児童精神科や精神科を受診しましょう。
保護者があえて手を貸す
精神科を受診する場合も、不登校やいじめなどの問題では専門家がいる相談機関を利用します。
子どもがいじめなどで疲れきり、動けなくなっている場合もあるため、保護者が主体的に動いた方がよいでしょう。
次回は、「自閉症スペクトラム」と「自閉症スペクトラム障害」の線引き、「自閉症スペクトラム」の人はどれくらいいるのか?について見ていきます。