社会不安障害ってどんな病気?-⑤

「社会不安障害」の治療は、薬物療法が柱になります。

回避行動を生むもとになっている、不安や恐怖を軽減するのが目的です。

「こころの状態を薬でコントロールするなんて…」と心配される方もいるかもしれません。

そんな心配を解消するために、どんな薬を、どんなふうに使っていくのか、詳しくみていきましょう。

薬物療法

「社会不安障害」の治療は、薬を適切に使用していくことで大きな効果が期待できます。

ただし、どんな薬でも「飲んでいるだけで性格が変わる」というわけではありません。

最終的な目標は、「逃げる」人生に別れを告げ、新しい行動パターンを獲得することです。

その目標が達成されれば、結果的に「性格が変わった」となるのです。

服薬による症状の軽減
不安や恐怖感の減少、身体症状の軽減など
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回避行動の減少
症状の出現をおそれなくなり、社会的場面に立ち向かえるようになる
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新しい行動パターンの確立
行動パターンが変わることで、自他ともに「性格が変わった」と感じられる

薬物療法ここが不安

Q 薬がやめられなくなったりしませんか?

薬がやめられない状態を「薬物依存」といいます。

薬の効き方が徐々に悪くなり、量をどんどん増やしていかなければならなくなったり、やめるとつらい症状に見舞われたりする状態です。

「社会不安障害」の治療に使われる薬で、そのようなことが起こることは、まずありません。

Q 副作用はありませんか?

いずれの薬も、まったくないわけではありません。

しかし、大きな問題になるような副作用はないと考えてよいでしょう。

Q いつまで飲み続ければ治る?

服薬期間は、年単位になることが少なからずあります。

長年にわたって続けてきた行動パターンを変え、新しい行動パターンを獲得することが治療の目的です。

行動パターンを固定するのは一朝一夕にはできません。

半年から一年、可能であれば3年程度の年月をかけて治療していこうという心構えが必要です。

薬剤の特徴

「社会不安障害」の治療に用いられる薬は、大きく分けて3つのタイプに分けることができます。

それぞれの特徴を生かしながら、組み合わせて治療を進めていきます。

SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害剤)

SSRIは、「社会不安障害」の薬物療法を進める上で、第一に選択される薬として活用されてます。

もともとは、抗うつ剤として登場した薬ですが、「社会不安障害」に対する有効性が高く、ほかの薬に比べて副作用が少ないという特徴があります。

「社会不安障害」と合併することが多い、うつ病の治療も同時に行えるというメリットがあります。

不安を生じにくくさせることから、回避行動の減少、新たな行動パターンの獲得が期待できます。

効果

SSRIには数種類の薬がありますが、いずれも高い治療効果が認められています。

ただし、効果が現れ始めるのは、服薬開始から1~2週間かかります。

副作用

まれに、以下のような副作用が現れます。

  • 吐き気
  • 頭痛
  • 眠気
  • 不眠
  • 性機能障害

いずれも服薬を続けるうちに改善しますが、薬の量を調節したり、症状を抑える薬を併用したりすることもあります。

服用方法

毎日、定期的に服用することがすすめられます。

短期で中止すると、再発しやすくなるおそれがあります。

少なくとも1年以上、服用を続け、新たな行動パターンをしっかり定着させることが必要です。

抗不安薬

SSRIと並び、使用されることが多いのが抗不安薬です。

その名の通り、不安をやわらげ、強い緊張をほぐす効果があります。

しかし、うつ病やアルコール依存症など、併発しやすい病気には効果が期待できないこと、SSRIより副作用が現れやすいなどの点から、「社会不安障害」の治療薬としては、補助的な使い方をすることが多くなってきています。

SSRIに比べて即効性があります。

効果

「社会不安障害」の治療に用いられる抗不安薬は、「ベンゾジアゼピン系」といわれるタイプで、神経伝達物質のひとつ、GABAの働きを強めることで、神経細胞の興奮を鎮めます。

服用すると、それまでの強い緊張を覚えていた状況でも不安を感じにくくなります。

副作用

以下のような副作用が起こることがあります。

  • 眠気
  • めまい
  • ふらつき
  • 脱力感
  • 食欲不振
  • 低血圧

服薬直後は、とくに眠気などの副作用が現れやすいです。

服用方法

服薬後、15分~30分ほどで効果が現れる薬もあります。

スピーチ恐怖などで、あらかじめ苦手な状況がいつ起こるかはっきりしている場合は、そのつど服薬して乗り切ることも可能です。

ただし、SSRIより依存性が形成されやすいため、服薬は必要最小限度にとどめることが望ましいとされています。

β遮断薬

不安や恐怖といった感情そのものに働きかける作用はありませんが、特定の場面で決まって現れる、震えや動機などの身体症状に苦しんでいる人は、β遮断薬を必要時に服用することで好転することがあります。

効果

β遮断薬は心臓の拍動を抑え、血圧を下げる働きを持つことから、高血圧や不整脈、狭心症などの治療薬として用いられています。

自室神経失調症の治療にも使われることがあります。

副作用

血圧を下げる働きがあることから、低血圧によるふらつきなどを感じることがあります。

また、気管支が広がりにくくなる作用があるため、ぜんそくの人は使用できません。

服用方法

限局型の「社会不安障害」で、あらかじめ予測がつく、苦手なイベントの前だけに用いるのが一般的です。

全般性社会不安障害の場合には、あまり用いりません。


次回は、もうひとつの治療法、「認知行動療法」の概要と、手法のひとつ、「認知の修正」について詳しくみていきます。

 

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