強迫性障害ってどんな病気?-⑧

前回、認知行動療法のひとつ「曝露反応妨害法」、その他の治療法はこちら

「強迫性障害」の治療には、時間と根気と工夫が必要です。

医師やカウンセラー、家族は治療のサポートはできますが、本人が治したいと思っていないと治療はうまく進みません。

治療中、どのように過ごすのがよいのか、さらに、治療後の再発予防に関しても解説します。

治療の考え方

「強迫性障害」の治療では、日常生活に目を向けることも大切なポイントです。

なんとか仕事や通学ができているなら、普段の生活を続けて生活の幅を狭めないことが、治療に役立つ場合もあります。

仕事や勉強に集中したり、なにかを楽しんでいるときなど、症状による苦しみが少ない時間を持ち続け、症状の悪化を食い止め、回復を図るうえで大切です。

強迫症状にとらわれない時間をもつ

【余暇】やりたいことをやる
本人がやりたいと思ったことに何でも積極的に挑戦し、打ち込めることが見つかれば、症状がない時間をもつことができます。ウォーキング、ジョギング、水泳、ヨガなど、自分に合った運動を取り入れることもおすすめです
【仕事・学校】折り合いをつける
まわりの人の目が意識される場では、症状をおさえようという意識が働きます。
何十回も手を洗いたいが、適当に切り上げるなど、自分なりに折り合いをつけることができれば、毎日の暮らしの中で行動療法を実践しているのと同じことになります
症状にとらわれない時間をもつことで回復が早まる

本人のあり方

「強迫性障害」は、決して珍しいものではなく、今なら「強迫性障害」と診断されるような著名人も数多くいます。

たとえ、行き過ぎた点があっても、個性のひとつとして受け入れられてきたことも多いのです。

歴史上の人物にみられる「強迫性障害」

サミュエル・ジョンソン
イギリスの評論家。『英語辞典』を独力で完成したことで有名。
部屋を出入りする際、厳格に歩数を決め、いつも同じ足で敷居をまたいでいた。
歩くときは、全てのポストに触り、ひとつでもとばすと引き返した。
泉鏡花
幻想的な作風で知られる作家。不潔恐怖や確認強迫があったという。
師の尾崎紅葉の家に書生として住み込んでいた時、師から託された手紙をポストに投函したが、きちんとした形で投函したか心配でたまらず、ポストの周りをうろついていたところを、師に一喝されたエピソードを自ら残している。
平賀元義
幕末の国学者、歌人。不潔恐怖があった。知人の家に居候しては、口や体を洗うのに消毒剤として塩を大量に使ったり、排便後に何十枚と使うので、周囲から迷惑がられた。
「あの人もそうだったんだ」と思えるだけで、心が少し軽くなる

再発予防①

治療によっていったん改善しても、症状のぶり返し(再発)が起きる可能性はあります。

再発のリスクを小さくするため、工夫が必要です。

回復後もしばらく通院を続ける
症状が落ち着いてきたからといって、急に治療を中止するのはよくありません。
薬を徐々に減らしながら、再発を防ぎます。
薬はいきなり中断しない
「強迫性障害」の薬物治療に用いるSSRIは、急に服薬をやめると、めまいやしびれなどの不快症状を起こすことがあります。
薬の量ややめる時期など、医師の指示に従い、自分だけで判断しないようにしましょう。

再発予防②

治療によって強迫症状がある程度よくなってきても、一部が残っていることが少なくありません。

症状がたくさん残っていると、後日ストレスが加わったときに再発しやすくなってしまいます。

治療の終了を考える前に、症状が残っていないかチェックし、症状があれば対処を工夫することが大切です。

強迫観念を「流す」練習をする

一度は消えていた強迫観念が、後日また現れてくることもあります。

そういうときに、強迫観念をそのまま流して、強迫行為をしないで我慢するコツを身に着けていきます。

  • 強迫症状が出るリスクがあるときに薬を飲む
  • 強迫性所外の悪循環を思い出す
  • 強迫観念が出ても、びっくりせず、たじろがない
  • ときおり曝露反応妨害法を復習する
  • 不安は時間がたつと小さくなることを思い出す

再発予防③

落ち着いていた症状が再発しやすいのは、睡眠不足や体調不良、ストレスが続いたとき。

心身共に快適な状態を保つことができればベストですが、なかなか思い通りにいかないのが実状です。

しかし、「これらの状況が危険」という認識のあるなしで、対処の仕方は変わってきます。

早めは早めの対応で、再発の危機を回避しましょう。

3つのポイントを押さえて再発防止

【1】体調管理に気をつける
無理しない、疲れをためないことは、心の健康を守るために大切。十分な睡眠をとることもメンタルヘルスの必要条件。食事や運動にも気を配りながら、体調管理に気をつける
【2】なるべくストレスをためない
がんばりすぎ、がまんのしすぎはストレスのもと。何事も「ほどほど」を心がけて。「ストレスがたまっているな」と感じたら、早めに解消を
【3】自分の状態をチェックして、適切な対応を
自分の体の声に耳を傾けながら、日々の体調や気分の具合をチェックして、「あぶないぞ」と感じたら、早めに適切な手をうつ。必要なときには、医師に相談して薬を処方してもらい、危険な状況を乗り切るまで服薬する方法もある。

次回は、家族が協力者としてとしてできること、を解説します。

 

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